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「かぞくのくに」という映画

 松本シネマセレクトで上映予定が出たとき(7月ころ)には、それほどマークしていませんでしたが、このところ評価が急上昇し、ついにアカデミー賞外国語映画の日本代表になってしまいました。そんなこともあって、上映会場はシネマセレクトには珍しく、結構満員でした。

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 北鮮系の在日朝鮮人のある家族に実際にあった話をもとに(ヤン・ヨンヒという監督さんの家族)、多少脚色されています。ただ、そう言う事実を紹介するために・・・作られているわけではないので、「世の中にはこういうこともあるんだな」という驚きを超えた普遍的な感動や、深い堀りさげがある映画です(私も、最初は「世の中にはこういう・・・」を紹介する映画かなと誤解していました)。

 その事実とは、戦後、共産主義国家として、独立したばかりの北朝鮮は「地上の楽園」と呼ばれていたということ。そしてそこに、北鮮系の在日朝鮮人の方たちが、希望すれば帰国することができたということです。このあたり、私はギリギリ知っていますが、50代より下の方には、初めて聞く事実でしょう。

 ここからは、初めて聞く事実でした。その帰国者が、日本に一時帰国することができたという事実です(もちろん彼らにとっては、北朝鮮、日本ともに母国のような形になるので、今は便宜的に両方とも帰国と言う表現を使います)。

 映画の設定では、日本には、両親と妹(リエ)がおり、兄(ソンホ)が(妹が中心的な人物として描かれているので)、病気治療のために一時帰国します。しかし、治療が行われる前に3ヶ月という滞在期間が打ち切りとなり、急に北朝鮮への帰国命令がくだり、帰国してしまうという物語です。

 描かれているのは、政治に翻弄される個人ということであるとか、北朝鮮という独特の国の体制なのですが、それを批判するというようなところを大きくはみ出して、さっきも述べましたが、普遍的なものを取り扱おうとしているような感じがしました。

 それは「人間にとって自由とはなんなのだ」という、大きな命題です。ソンホはある特殊な指令も帯びてきています。そのためもあって、工作員のような男の監視を受けています。これはまるで、犯人も了解済みの刑事の張り込みのようないやらしい感じです。この男、演じているのは、「息もできない」のヤン・イクチョンなのですが、ものすごい存在感と、「自由とは・・・」というテーマにおいて、重要な役割を果たしています。

 国の急な決定に「こんなことはいつでもある事なんだ」と従うソンホ。特殊な指令について問いただし、「お前の立場もわかるが」という父親に、「私の立場などわかるはずがない」と爆発する場面。北朝鮮の政治体制の批判のように見せていますが、私には、日本という体制や社会に対する批判にも見えました。

 また、工作員らしき男は、ビジネスホテルに滞在してるんですが、そこに本国から一時帰国者の帰国命令についての連絡が入ります。その場面は、ベッドに寝転がってテレビ(ビジネスホテルに泊まったことがある人ならわかるんですが、たぶんアダルトな放送)を見ているところに電話があり、急に直立不動になるような、そんな場面で、一気に緊張感が走ります。

 なにか、北朝鮮の体制に従順に従っているような国民というのが、まるで、ある会社に勤めている社員のようにもダブって見えてしまって、これって、日本の会社でもありがちじゃん・・・そんな風に感じました。

 映画を見た感じ方は、人さまざまでしょうが、私は、日本という国が自由なように見えながら、そうでもない空気で溢れているような、そんな風なものも描かれているなと・・・。北朝鮮の体制と対比すると、国家体制としては自由なのですが、本当に自由なのか・・・それを問うているような、そんな気がしました。国家政策として、建前は自由だが、実質は北朝鮮とあまり変わらないのだよ・・・とでも言っているような。

 そう、岡林信康の歌の歌詞にあった「ブタ箱の中の自由」なんではないのか?韓国の詩人の金芝河の言葉にもそんな言葉がありました。

 映画のパンフのソンホとリエの表情にもそれは暗喩されています。ソンホのすべてを諦観しているような、淡々とした表情。リエの全てに苛立って、もがいているような表情。

 そんな日本を、北朝鮮の体制というある種の絶対悪と対置させることによって、強烈に逆照射している。そんな映画です。 

 映画の中で象徴的に扱われている、スーツケース。銀座かどこかの繁華街を兄妹で、ウィンドーショッピングして歩くのですが、その中で、スーツケースを売っている店に入ります。店を出てから、ソンホがリエに「あれを持って世界をまわって見聞を広めろ」みたいなことをいうのです。

 これが映画のラストシーンにつながっていく伏線で、ラストシーンはほんとになんでもない短いシーンなのですが、とんでもなく巧いラストです。「監督ぅ、やるなぁ」というようなそんなシーンになっています。これアカデミーいけるんでないかいと本気で思っています。

 

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○ヤン・ヨンヒ[監督]『かぞくのくに』(2012年)を観た。 久米宏が絶賛 2か [続きを読む]

受信: 2012年10月11日 (木) 09時00分

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