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「宮本常一と歩いた昭和の日本 関東甲信越編」 あるく・みる・きく

本観光文化研究所が、昭和40~60年代に月刊で出していた業界(ホテル・旅館)向けの雑誌「あるく みる きく」の復刻版だ。といっても、大幅に編成しなおし、地方別に編集したものだ。図書館には関東・甲信越の1と2が入っている。

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 この雑誌は一般に販売されていたものではなく、近畿日本ツーリストと提携していた旅館に機関紙のように届けられていたもので、大変貴重なものだ。今、改めてこの全集を目にしてみて、この全集を出す意義は大きいと感じている。特に⑪関東甲信越編2に収録されている「山に暮らす日々 潟県岩船郡朝日村三面 」は、民族文化映像研究所の大作「越後奥三面 山に生かされた日々」を撮影記録した際の、文書での報告書である。とてもていねいに文章化されており、あの素晴らしい映像とともに、この地域の民俗や暮らし方を、広く知らしめるための的確なレポートになっている。もちろん、映画の方でも助監督をつとめていた田口洋美氏による報告だ。関東甲信越編の場合、奥利根、佐渡、筑波山、伊那路、鎌倉、松本、青ヶ島、秩父などで章立てされており、そのひとつひとつが本当にその地域に根ざしたり、深く関わったりした者が記録している。いずれも、宮本常一にしこまれたであろう新進気鋭の若者たちである。もちろん今では、各分野の重鎮になっている方も多い。姫田忠義、須藤功、五百沢智也、神崎宣武、宮田登など錚々たるメンバーである。

 添えられている写真もすこぶるいい。関東甲信越編の中では、伊那谷の章にあるもので、手紙を出すために道端で、その日町に出る人を待っている老人を写したもの、伊豆諸島の青ヶ島の章で、荷物を積んで港から登ってきた少年と牛を写したもの、この2枚は素晴らしい。こんな写真を撮れるほど、村に深く潜入していたのだと思うと、その心意気が伝わってくる。できればどこかの図書館で全巻を揃えて入れてほしいものだ。

 こんな感じの写文集は、子どもの頃によく見たものだ。たぶん「あるく みる きく」の成功に、2匹目のドジョウをねらったものだったんだろうけれど、あの頃(昭和40~50年代)の旅行の嗜好と、現在の旅行の嗜好が少し似通っているのでは・・・と思う。小さな路地や、訪れた先での人々の生活ぶり、そういったものに旅の興味はかつてあったのだと思う。その後、海外旅行や、国内でも派手な見所のある観光地が人気になり、その変遷を経た今、先祖がえりのように、体験型の観光や、地元の何がない暮らしや人々との触れ合いへと、興味が戻ってきたのだろう。そんなタイムリーな時期にこの全集は出てきた。

 

 宮本常一、本人が書いている文章もいくつか収録されているが、やはり格が違うと言うか、洞察が深いというか、読ませる内容になっている。他のある本の中で、宮本常一はこう言っている。

本物をみるということは『あるく』以外に実は方法のないものなのです。自分自身が体験を持たない限り、その本物はわかりようがないのです。そして『みる』ことの中に発見があるのです。物をみるということは、外側からみるだけでなく、まず内からみることが大事なことになってきます。わかったと思い込むのではなくて、わからないことを確かめて、明らかにしていく、それが大切なことです。旅とはそういう場だと思います」

 そんな旅をしてみたくなる本だと思う。 

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