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「自由生活」 哈金(ハ・ジン)というすばらしい作家

 アメリカに渡った中国人移民たちの物語です。。移住者から見たアメリカ社会。それを時系列で丹念に描いていきます。

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 主人公は、もとは大学教授(中国)というインテリでありながら、アメリカでは守衛や飲食店のスタッフなどとしてコツコツと仕事をしていきます。そして飲食業で独立し、小さな成功を治めます。そんなささやかなサクセスストーリーを紡いでいく中で、もともと目指していた「詩作」から遠ざかっていく自分に気づき、芸術にたずさわることと、現実に生きることとのギャップに悩んでいきます。

 このお話、なんていうか、中国移民に限定される話ではなく、世の中には同じような状況が、たぶんあちこちにあって、それぞれのケースは、この小説のような紆余曲折に溢れているのですね。例えば、「田舎に移り住んだ I ターン者」なんてのも、同じような境遇かもしれないのです。

 もちろん中国移民だけの「世間」が出来上がっていて、その中に、天安門事件に批判的な者もいるわけだし、現政権(中国の)に対して愛着心を感じている者もいるわけなんですね。そのあたり、「亡命」というわけではないけれど、それに近い思想や状況の者もいたりして、そういうところは、共産主義・資本主義という思想信条が、生活に及ぼす影響というものを強く感じさせてくれます。これは、日本に住んでいては、よほどのことがない限りお目にかかれないものです。

 分厚く、2冊の長い著作ではありますが、とても、読みやすいです。しかし、内容は濃いんですね。著者の自伝的要素も強く、その心の葛藤、故郷に対する複雑な思いが交錯します。また、アメリカに順応する者、できない者、中国に帰る者、それぞれの思いが、絡み合い、ある者とは友人となり、ある者は裏切り者となり、ある者は敗北者になっていきます。そういった移民社会のすべてを切り取って、淡々と描きます。これらの描写によって、「自由とは何か」ということを、力強く描ききっています。すばらしい小説でした。

 ひとつ。本の帯に「村上春樹と人物の描き方が似ている」云々とあり、そんなこともあり、装丁が「ノルウェイの森」と同様に、上巻が赤一色、下巻が青一色となっているようです。小説の内容が充実しているだけに、この売り込み方はいただけない。というより、ハ・ジンに対して失礼でしょう。

 昨年ノーベル文学賞をとった莫言も、新しい小説家のパターンとして、次のように褒めて(?)います。

 「哈金(ハジン)は英語で創作を始めた人なんです。中国語では書かない。英語で中国のことを書いているわけです。亡命というのとは違いますが、流亡の文学という形で祖国のことを書いているわけです。暮らしている環境は外国にあって、しかし書かれている内容は中国のことである。彼らは現在の自分たちが住んでいる場と記憶の中の中国というものを対照させながら、その中から新しいものを見出して、鮮明な違いというものを拡大して見せてくれる。そういう意味では、我々が中国で書いてきた作品の中では、必ずしも明快に見られなかったような部分というものを、新しい環境に身を置くことによって描いてみせている。」

 長編が苦手な方には「待ち暮らし」、これも大変面白いです。また、短編もなかなか、「すばらしい墜落」。悲喜こもごも、トホホな移民の実態も出てきて、これも面白い。今、一番おすすめの作家です。

 

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