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「僕たちの前途」(古市憲寿) それって、あるんだかないんだか

 この本について書く事が難しい、そんな本だ。著者は本の中で、のらりくらりと、自らのスタンスを明確にしていない。意図的だ。もちろんとっかかりは、自分の身の回りにいる様々な成功者や成功譚だ。著者と同じ会社(社員は3人)で働く松島隆太郎を中心にしてつながる、起業家たちのネットワークをたどりながら、その生態を明らかにしていく。
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 東京ガールズコレクションの中心人物村上範義、人気俳優から映画監督へと転身した小橋賢児などなど、これらの人たちに共通しているのが「自分たちが楽しんで生きること」であると、古市はいう。この前半部は、少し上から目線の、成功者たちの暮らしはこんな風といった描写が続く。やや食傷気味になるが、どうも古市の視点は、焦点をそこに合わせているわけでは無いようだと、感じさせる。
 そして、中盤では、「起業家」とはどういう存在なのかを、分析していく。ここで著者は、それまで紹介してきた起業家について、世間で言われている「起業家」像とは異なるということを、強調している。政府の言う起業家育成という大上段の論議ではなく、「専門性を突き詰めた結果、起業家になってしまった」という、ひとつのあり方を示していく。このあたりから、著者の分析力・社会の見方が鋭さを増してくるのだ。普通の論者であれば(そんなものいるのかどうかはさておき)、華やかな「起業家」と、定職に就かないようなフリーターとの2極分化の構造というベタな議論に走りがちであるが、著者はそういった手法とは距離を置く。それよりも、世間一般の「起業家」に
対するイメージを相対化する方に力を注いでいるように思う。
 ただ、そこでも、「つながる」力を、レベルの高い者どうしがゆるいネットワークを組んでいくこととして、書き込んでいるが、それ自体には、若干、無謀な感じを抱いてしまった。それだけ、著者の周りに漂う人々が、特殊なのかもしれない。そのあたりは、最後の方で書いている。「『私は成功しているが、あなたたちは無理だ』と主張するのは実はすごく難しい」、う~ん、本音はこのあたりにあるんじゃ
ないかなぁ。
 まあ、この方、非常にさめているみたいで、ある種読者を冷たく突き放す。それはやはり、身も蓋もない現実というものがあるからだろう。結論めいたところには、希望があるように見せかけてはいるが、そこはそこで、取ってつけたような、一種歯が浮くような言葉が散りばめられていたりする。全体的に、あっちへ寄り道、こっちへ寄り道して、言葉をオブラートに包みながら、しっかり本音は言っているかなと、そんな本だと思う。
 その冷徹さ、突き放しの度合いが、若者に受けているのではないんかなと、そう思ってしまった。もしかして、今の若者と言われる人たちは、マゾヒスト化が進んでいるのかもしれない。おっと、こういう「若者論」が最も嫌いだったね、古市さん。
 まあ、全編に特有の今風の皮肉やブラックユーモアが満ち満ちていて、こういった対象を笑いものにしてしまう、シニカルな視点が、若者視点なのかもしれない。「朝井、会社 辞めないんだって」には爆笑でした。

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